TAKE 1

「今までね、本当の事を言った事がないんだ」

「じゃあ、言ってみれば?」

頭の中で誰かが会話してる。

「色々影響されやすい性格なんだ。昔っから」

「じゃあ、何にも影響されてない本物のアンタはどこにいるの?」

「どこにもいないの」

そうだろうと思う。

「じゃあアンタは何なのさ」

「周りの物を見て、それを見様見真似で演じてるだけなの」

「じゃあ好きな事とかやりた事はないの?」

「それも多分、誰かの真似だと思うから」

酷く嫌な気分。

「でもアンタはアンタでしょ」

「そうだね。だけど、また何かに影響されていなくなっちゃうから」

「いなくなっちゃうって、変わんないじゃん」

「どこが変わってどこが変わらないのか、判らないんだ。自分は」

自分は?

「自分はどこが自分でどこが他人なのかわからないの」

「どんなものに振り回されても影響されても、変わらないことくらいあるでしょう」

「うん。だけど、それも元々は自分のものじゃない気がする」

酷く嫌な気分だけど、こうしてみるのも

「空っぽなんじゃないかって。本当は空っぽなんじゃないのかなって思うんだ」

「まぁでも、空っぽでもアンタには違いないよ」

「でも周りの人は、空っぽの中身は見えないよ」

「それはアンタが見せようとしてないからじゃないの?」

そのとおり。

「だってそんな事したって意味がないもの」

「意味なんかないね。でもね、自分が空っぽにしか見えないのは他人に映してる自分が空っぽだからなんだよ」

「空っぽなの?」

「だって、アンタは空っぽの中身を見せようとしないじゃないの」

こうしてみるのも、気持ちがいい。

「中身なんて見られたくないから」

「だから、自分が見えないんだよ。鏡が無いと、自分の顔なんか見れないんだから」

「そうだね。でも、あなたは誰?」

「空っぽの中身だよ」

「じゃあこうしているのも、本当は誰かの真似してるだけかもしれないね」

その考えは、そう考えた途端、気持ちが悪くなった。

とても気持ちが悪い。ゾっとする考えだ。

それきり、頭の中で誰かが出てきて会話する事はなかった。






TAKE 2

「何してるの?」

「何もしていないの」

「何もしていないのなら、何故ここにいるの?」

「わからないの」

「家はどこなの?」

「知らないの」

「家族はいるの?」

「覚えていないの」

「どうしてここにいるの?」

「何も思い出せないの」

「そう。じゃあ一緒に来る?」

「それは、いや」

「どうして嫌なの?」

「だって、何もしたくないもの」

「なら、そうしている事に意味はあるわね」

「わからない」

「だって意味がない事なんて、人には出来ないんだから」

「何も、わからない」

「気が済むまでそうしていればいい。そうすれば何の為にやっているのか、いつかわかるから」

「わからないの」

「そう、でも忘れないで。ここにいる以上あなたがいる事に違いはないんだからね」

「・・・・・何もわからない」

「ここにいる理由も、家も、家族も、名前も、全部いつか思い出せるから」

「わからない・・・・わからないよ・・・」

「大丈夫。わからなくたっていいんだから」

「それもわからない」

「笑えば、それでいいんだよ」

「どうして?」

「さぁ。それはわからないけど」






TAKE 3

冬。

見上げた空は雲一つない。

まるで一つの絵の具をただ力任せにぶちまけたみたい。

本当に、絵の具。

子供の絵の具使いと似てる。

全く同一と言うわけじゃない空の色は、だけど「蒼」だけで表現できた。

暖かい日差し。

真上を向く。

雲は一つもない。

太陽を中心に蒼が広がっているだけ。

それだけであるはずなのに、それだけではない。

背の高いビルはどうしても視界の端に現れてしまう。

アレは嫌な物だ。

嫌な物。

なくなってしまえばいいのに。

なければよかったのに。

それを言うなら、自分もそうじゃないか。

バカ。

―――誰かに殴られた。






TAKE 4

BGM:蝉
背景:空と太陽と雲と森林
天候:晴れ
撮影:俺ん家
フィルム:問題無し
役者:無し






TAKE 5

「言いたい事は全部言ったの?」

「自分が何を言いたかったのか、もう忘れちゃった」

頭の中で誰かが会話する。

「じゃあもう気は済んだんでしょう?もう寝なさい」

「なんか寂しいから、嫌だ」

「じゃあ後は何をするのさ」

「もう少しだけ続けたい」

意味の無い言葉。

「時間って止まらないものだよね」

「止まっちゃったら大変でしょ」

「一秒経つごとに、一秒無くなっていくんだよね」

「一秒ずつ貯めて行ってるんじゃないの?知らないけど」

「でも時間はずっと流れてて、自分もその中にいるんだよ」

「何が言いたいの?」

「怖い」

「怖いね。けど怖いからってどうにもならないでしょ」

「だけど、怖いんだよ」

「でも時間は止まらないよ」

「わかってる。わかってるから、こうして無駄な事ばかりするんだから」

「無駄じゃないよ」

「え?」

「無駄じゃない。だっていつか思い出せる日が来るじゃない」

「それはなんの意味があるの?」

「意味なんて無いし、いらないの。ただそうなるって事はあるんだから、無駄じゃないの」

「難しいよ」

「だからもう、考えるのは止めてよ」

「考える事止めたら、何もする事が無くなっちゃう」

「だって考えるだけ考えて間違ってたら、どうするの?」

「だって、考える事しか、ないじゃん」

「それも、結局」

それは

「結局は他人のものかも知れないのに?」

「それだけは言わないで」









誰かの鳴き声が聞こえた。
押し殺したような泣き声。
泣いてもどうにもならない。
どうにもならないのに。
そんな事わかってるのに。
そんな事しか出来ないから。
泣き声は病まない。
病むことがない。
もう、ずっと。