憎しみという刃を武器に
椎名 唯は着実にレイヴンとしての実力を高めていく。
友も肉親も、正義さえも失った椎名の心に残るものは憎しみだけだった。
そしてその復讐の刃が血糊で綻び崩れ、存在する理由がなくなった時。
椎名は何を見るのだろうか。
第十一ミッション
レイヴンが早死にをするというのは、当たり前の事だ。
ある者は事故で。またある者は何者かの手によって・・・。
若くしてその命を散らすレイヴンは数知れない。
主にACを使って遂行する任務のほとんどは、死と隣り合わせだ。
マシントラブルや流れ弾のコックピット直撃など、避けようの無い死を覚悟し続ける事が必要だという事になる。
よって、今の時代レイヴンか企業の精鋭部隊にでもならなければACに乗る事ができない人間は、ACと言う物を自由に操る事に掛けてはまるでネンネである場合が多い。
それほど、このACと言う兵器は不完全な物でしかない。
錬度が完成の域に達するまでに死んでしまうからだ。
それでも、その中でベテランと呼ばれる人間は、ACという兵器を良く知っているんだろう。
そして何よりも、運がいい。
ランカーレイヴンとはそういう人間の集まりの事を指すと言っても過言ではない。
燃料倉庫襲撃
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:21000C
エスト地区にある、ケミカルダイン社の研究所に対する極秘調査を行う。
一般には知られていないが、ケミカルダインの研究内容には物騒な物が多い。
それがこれまで表沙汰にならなかった事は、クロームの影響が働いているらしいという事をムラクモは突き止めた。
今回の依頼内容は、調査部隊の研究所侵入をサポートする陽動行為だ。
研究所に隣接している燃料倉庫を襲い、内部の燃料タンクを全て破壊すればいいらしい。
その騒ぎに乗じてムラクモの調査部隊が研究所に侵入するという段取りだ。
ガードに見つかると厄介なので、破壊完了後は速やかに撤退しなければならない。
燃料タンクの数は多く、誘爆の畏れも在るらしいとの事だ。
という事は、今までのパルスライフルだけでは玉切れになるかもしれない。
まさか燃料タンクをレーザーブレードで切るわけにも行かない手前、ショップに行って何か新しい武器を買うべきか。
ショップに行き、BACK WEAPONの欄を開く。
現在の手持ちで買うことができるのは、実弾の兵装のみだった。
ただ燃料タンクを破壊するためだけに資金を浪費するのは避けたい。
しかし現状ではエネルギー兵器を買う余裕がない。
仕方なく腕を安物に買い替え、余った資金を費やしてパルス型エネルギー弾を発射するキャノンを購入し、雷斬に装備させるよう指示する。
後は、俺の腕次第だ。
『戦闘システム 起動』
入り口から堂々と侵入する。
扉を一つ開け、燃料タンクが疎らに見える大きなフロアに出た。
レーダーを見ると至近距離に敵の反応。
辺りを見回すが、それらしいものは見えない。
機体上部に軽い衝撃を感じ、初めて気が付いた。
「上か・・。」
パルスライフルをほぼ真上に向かって数発撃たせ、侵入者要撃用の固定砲台を破壊する。
「あれだな。」
カメラ正面に映っているのは、送信されてきたデータと同一の燃料タンクだ。
銃を構えるが、わざわざ動きもしない敵に銃を使う事も無いだろう。
機体の武器を、肩の物に代える。
ACは、基本的に肩の武装を使う場合片膝を付いた状態になってしまう。
そうしなければ保たない。機体もパイロットも。
例外なのは比較的反動の少ないミサイル系や、ロックオン・システムが搭載されていない・・・つまり、手動で敵を補則し、発射しなければならないロケットの武器だけだ。
普通、ACの戦闘はほとんどFCSと呼ばれる照準機器に頼っている。
コレのおかげで、敵を機体正面に向けるだけでほぼ完全にロックオンし、パイロットは発射のボタンを押せば玉は敵に向かっていく。だが、ロケットの場合は玉の弾道を示す表示があるだけで、後はパイロットがどれだけ熟練しているかにかかっている。ハイリスクハイリターンな武器といえる。
燃料タンクに攻撃を加えると、周囲数メートルを巻き込んで爆発し、近くにある物も爆風に巻き込まれて爆発した。
直後、雷斬の機内警告がコックピットに広がった。
『異常発生 異常発生 ロックオン 機能低下』
さっきまで敵を捕捉したロックオンサイトに敵を入れても、全く反応しない。
「ケミカルダインはこんな物まで飼ってるのか。」
『異常電波 確認』
正面には、鯨のような形をしたMTがいた。どうやらあれがロックオンを妨害する電波を発信しているのだろう。
攻撃機能はないようで、辺りをふわふわと浮いている。
機体のエネルギーキャノンを慎重に照準し、そのMTへ向かい発射した。
だが、砲身がいう事を聞かずにとんでもない方向へパルスライフルを放ち続ける。どこかで燃料タンクの爆発する音が聞こえた。
「くそっ、このポンコツ!」
素早く機体を立ち上がらせ、ジャンプさせる。
飛翔しながら近付きレーザーブレードを振らせると、MTは爆散した。
『ロックオン 機能回復』
どうやら回復したようだ。部屋のあちこちに配置されている砲台と、固めるようにして置いてある燃料タンクを順調に破壊しながら進むと、次の部屋への扉があった。
開くと、そこは先ほどと同じような造りだが、セキュリティメカも何もない。ただ燃料タンクが置いてあるだけだ。
少し拍子抜けしたが、依頼は慎重にこなさなければならない。
タンクを破壊しつつ進んでいくと、地上百メートルはあるだろうか。行き止まりから天井に向かって伸びる壁の上部に、ポッカリと穴が開いている。機体をジャンプさせその中に入ると、燃料タンクが数え切れないほど陳列されていた。一個でも破壊すれば誘爆を利用して全て片付けられるだろう。
どこから撃つべきかと機体をうろうろさせていると、また雷斬が警告信号を出した。
『敵増援 確認』
・・・どうやらMT部隊に見つかったようだ。陽動としては成功だろうが、ややこしい事になった。
機体をさらに穴の奥へ突っ込ませると、地面に光るものが見える。
機体を近づけると、長い砲身を持った銃のようだ。どうせガードに追われるならばこれも拝借しよう。
機体の「手」を操作し、機体後部のハッチに無理矢理引っ付けさせた。
『AC用武器パーツ 入手』
後はあのMTをどうにかしなければ。
俺は機体を燃料タンクの陰から滑り出させ、遥か下方に見える青いMTに向かってパルスライフルを撃った。
どうやらここまで来ていたのは二機だけだったようで、反撃すらさせずに撃破させた。
しかし、長居は無用だ。既に他のMT部隊も編隊を組んで迎撃に来るかもしれない。
雷斬を、後ろ向きにダイブさせ、重力の赴くまま機体が下降を始めた瞬間に一発だけライフルを撃った。
空中で機体を反転させながら、上方で激しい爆発音が続くのが聞こえる。
『全目標 破壊完了』
どうやら燃料タンクはあれが最後だったようだ。
「レイヴン、その程度で十分でしょう。帰還してください。」
ムラクモの通信士からだ。
「わかった。入り口まで戻ればいいんだな?」
返事を聞かずに通信回線を遮断し、最初に入ってきたフロアへと雷斬をダッシュさせる。
『敵増援 確認』
やはりここで待ち伏せしていたか。
俺は三機のMTを全てブレードで切り捨て、扉を開いて機体を元の場所へと戻した。
『作戦終了 戦闘システム 解除』
成功報酬:21000C
機体修理: 3431C
計 :17569C
所持金額:36938C
拾った武器と機体をガレージに残し、部屋に戻ってみると一通のメールが届いていた。
配信:R
件名:ケミカルダイン社
ケミカルダインは確かに評判のいい企業とは言い難いところがある。
生化学系のメーカーとしては確固たる地位を築いているものの、その陰で危険な実験や薬物に関する噂は絶えない。
またその発展の背景に提携関係にあるクロームの存在が大きい事は周知の事実だ、という内容だった。
「企業同士の潰し合いか・・。」
クロームとムラクモという巨大企業の争いが、様々な形で顕在化してきている。
現在のランク 13
第十二ミッション
アーマード・コアという兵器が開発され、人々の暮らしに浸透したという事実は、その後の人類の姿を大きく変える事になった。
破壊、護衛、土木作業なんにでも転用出来る柔軟なシステムは瞬く間に広まり、その技術は発展し続けている。
しかし、そのACの柔軟さを獲得しているのに最も貢献していると言える「各パーツのブロック化」は、裏を返せば柔軟であるがゆえに最大の弱点ともなっている。
ACは本来、旧世界の人型ロボットを参考にしているらしいが、各パーツを自由自在に入れ替えられるという事は機体バランスを完全に無視しているという事も出来る。
ただ性能のいいパーツを組み合わせただけでは、到底色々な意味での「強さ」を手に入れる事はできない。
レイヴンは機体を操る腕だけでなく、機体を作る事もできなくてはならない。
市街地襲撃
依頼主 :クローム
前払報酬: 0C
成功報酬:結果から算出
ガルシティでの破壊工作を依頼する。
内容は市街地を襲撃し、めぼしいものを適当に破壊する事だ。
自分達が危険にさらされればそれに抗う力を持たない者は何かに頼らざるを得ない。
力あるもの、即ち我がクロームにだ。
作戦行動時間は三分。長引かせるとどんなトラブルが起こるかわからんのでな。
報酬額は依頼の成果に応じて決定する。より多くの物を破壊すればそれだけ報酬も増えると言う訳だ。
これがクロームのやり方か。
自作自演で恩を売り、シティを懐柔しようという魂胆だろうがこんな奴等がいるとはな・・。
ディスプレイに唾を吐き掛けたい衝動を我慢しながら、契約確認の項をクリックしショップへのリンクを開いた。
迅速な作戦行動を行えるようエネルギーを消費せず、行動にも支障のでないであろう小型ロケットを購入し、脚部パーツを一段階高価な物に変える。
先の依頼で手に入れたレーザーライフルは、愕くほど高性能だった。
今まで使っていたパルスライフルと使えないエネルギーキャノンを売り払い、自室を出た。
エレベーターへ向かう道で、自分と同じ方向へ向かう女がいた。
鮮やかに伸びた黒髪と、銀色のパイロットスーツが妙にマッチしている。
これから任務に向かうレイヴンだろう。
エレベーターに乗り込むと、暫く無言でドアの方を向いていたが、一階に辿り着こうかと言うところで女は口を開いた。
「強いだけでは生き残れないわよ。」
「・・・。」
開いたドアから優雅に出て行くのを見届けてから、俺は雷斬の元へと向かった。
『戦闘システム 起動』
手始めにザムシティの通路に駐車している車の上を走らせながら、道路沿いに真っ直ぐ進む。
途中にある表札や信号機をレーザーブレードで斬りながら進んでいくと、上にモノレールが見えた。
「・・・。」
武器をロケットに切り替え、それを破壊する。
暫く破壊活動をしていると、通信が入った。
「そこのAC!直ちに投稿しろ!抵抗するならば、容赦なく攻撃するっ!」
そう言う間にも機体の左右に弾丸が流れる。どうやらガードのようだ。
ガードのMTは無視し、今度はビル郡の上にあるタンクを破壊していく。
三回目に大きく機体をジャンプさせ違うビルへ飛び移ろうとしたとき、雷斬の機内通信が開いた。
『敵増援 確認』
どうやら来たようだ。
クロームの犬かガードに頼まれたか・・。
恐らくこの速さならガードの救援では間に合わないだろう。クロームが予め用意していた敵だと思える。
『ヴァルキュリア 確認』
直後視界に移る白い機体。
ランカーレイヴンであるロスヴァイセが駆る現在ランク2位のACだ。
誰もその素顔を見たものはいない・・・。
「だが、弱い奴はどう足掻いた所で生き残れはしない・・・。」
レーザーライフルの出力を最大にし、猪突してくるヴァルキュリアに打ち付ける。
反撃の狙撃用ライフルを避け、空中に飛び上がりまたレーザーライフルを撃つと、ヴァルキュリアは全身から炎を巻き上げるようにして沈黙した。
その後、また駐車車両や信号機を破壊していると、機体の動きが止まった。
どうやらタイムオーバーのようだ。
『予定時間 経過 作戦終了』
特別加算:30900C
弾薬清算: 1870C
機体修理: 3149C
計 :25881C
所持金額:36149C
自室へ戻るとメールが届いている。
発信:R
件名:ランカーレイヴン
レイヴンズ・ネストは一定以上の報酬さえ用意して貰えればその依頼内容に関しては全く感知しない。
その為場合によってはレイヴン同士のぶつかり合いも起こり得る。
今回俺が戦ったのはランカーレイヴン「ロスヴァイセ」。
最高ランクのレイヴンの一人で、命があっただけでも幸運に思えだそうだ。
同じ企業にぶつけられる為だけに用意された二人のレイヴン・・・。いや、正確にはテロリストを退治するクロームのランカーレイヴンという構図にしたかったのだろう。
ランキングを見てみるとロスヴァイセの名は抹消されていた。
現在のランク 12
第十三ミッション
暑苦しい部屋で目が覚めた。
室内に取り付けられている冷房のリモコンを手探りで探し当て、スタートボタンだと思われる突起を指で押し込む。
ゴゴンと小さな唸り声を上げて動き出した冷房は、徐々に部屋の温度を快適な所まで下げていった。
幾分か涼しくなった後目を開けると、質素な部屋の隅がその姿を現す。
俺が日々の生活を送るレイヴンズ・ネストは、過剰なまでのレイヴンへのサポートを怠らない。
どのように情勢が流れても、全てのレイヴンが最適な状態でいられるよう様々な施設や管理体制が崩れることはない。
たった一つだけの例外を除いて。
寝ぼけ眼で端末を操作し、依頼が掲載されてあるページを開いた。
輸送列車護衛。
それが今回の依頼だ。
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬:12000C
成功報酬:20000C
どうやら相当切羽詰った状態のようだ。
ムラクモの長距離列車「バルダー」に対する襲撃計画が明らかになり、先頭車両に積んであるムラクモ内の機密が狙いである可能性が高いと見ているそうだ。
そこにきて、次に停車するヘブンズロックの補給所には遮蔽物となるものが全くなく、バルダーが無防備な状態になってしまうため絶好の襲撃ポイントになっている。
大至急列車に先行し補給所に向かってくれという事だ。
あくまで先頭車両の無事が最優先なため後方の車両はどうでもいいが、もし全車両が無事な場合は報酬に10000Cを上乗せするという条件がついている。
依頼の契約を済ませて、すぐさまショップへ向かう。
用済みになったロケットを売り、腕部を元の軽量な物に買い換えた。
余った金でオプションパーツを買う。
オプションパーツとは、機体の性能を向上させるアイテムだと思えばいいだろう。
AC構想の基本になる「コア」にあるスロット数が空いていればオプションパーツを取り付けることが可能になる。性能のいいオプションパーツはスロットを多く消費してしまうわけだ。
ガレージに機体の整備を急がせるように指示を出し、手早く着替えると雷斬の元へ向かう。
「今日も頼むぜ。」
『補給所に到達しました。ACを投下します。』
ムラクモの輸送機のハッチから雷斬が降下している間にもムラクモは攻撃を受けていた。
敵はどうやら飛行部隊らしく、そこら中を戦闘機が飛び回っている。
『戦闘システム 起動』
正面に見える戦闘機に照準を合わせレーザーライフルを撃つと、一発で沈んだ。
どうやら耐久力があるとは言い難い造りになっているらしい。
続けざまに数機を撃破し、ヘブンズロックの由来ともなっている巨大な「石」の上に機体をジャンプさせる。
自分より下を飛行する戦闘機に向かってレーザーライフルを撃つ。
レーダーに敵機影がないのを確認し、機体を線路のすぐ近くまで下ろす。
『こちら、バルダーまもなく到達します。』
通信が入った。敵の部隊は恐らく全滅させたはずだ。
一息つこうと思っていると、雷斬のメインコンピュータが反応した。
『未確認機 急速接近 未確認機 急速接近』
「どうやら真打登場だな・・・。」
コックピットの中で小さく呟き、雷斬をその赤いACに正面から突っ込ませた。
敵の放つライフルの弾を避け、空中から敵の背後を取る。
「遅い!」
レーザーブレードを振ると、敵のACのメインエンジンに接触したのか、炎上した後爆発を起こした。
辺りを見ると、敵は見られないものの変な物体が落ちていた。
ACの頭部パーツのようだ。
雷斬にそれを拾わせ、じっくりと見ようとすると通信が入った。
『補給完了。離脱します。』
バルダーが作戦領域外へ出て行ったのを確認してから、俺は雷斬の腕を下ろした。
『作戦終了 戦闘システム 解除』
成功報酬:20000C
特別加算:10000C
機体修理: 2875C
計 :27125C
所持金額:28444C
部屋に戻るとメールが二通きている。
発信:R
件名:強化人間
「強化人間」という言葉を知っているだろうか。ムラクモの開発した強化人間技術は靭帯各部の器官、主に神経系や骨、筋肉組織を人工物に置き換えることで、常人を遥かに上回る力を身につけることを可能にした最先端技術だ。
この手術を受けてきた人間は「プラス」と呼ばれ、一部では実際に兵士や要人の護衛役などに活用されている。
噂では上位ランクのレイヴンの何人かはこの「プラス」だと言われている。
しかし本来は工業系メーカーであるムラクモが何故こんな技術を開発できたのかは今も謎のままだ。
との事だ。
興味ないな。
二通目に目を通す。
発信:ムラクモ・ミレニアム
件名:赤いAC
あの赤いACの持ち主は元々腕利きのレイヴンとしてその名を知られていたが、ある任務に失敗した後の消息は誰にもわからなかったらしい。
数年前、突如帰ってきたあのACは各所で戦いの場に現れては誰彼の区別なく襲い掛かるという行動を繰り返していたそうだ。
しかし、最早その理由を知るすべはない。
俺の目の前で四散したのだから。
現在のランク 12
第十四ミッション
レイヴンズ・ネスト本部は静かだった。
俺が部屋と廊下を繋げるドアを開いても、時たま金属を打ち付けたようなカーンという響きが届くだけで、ほとんど無音だといっていい。
広大な地下空間に造られた都市郡の中でも巨大な部類に入るこのレイヴンズ・ネスト本部は数え切れないほどのレイヴンを内に保有しているはずだが、レイヴン同士がその顔を合わせることは滅多にない。
どれほどの規模でどれほどの力を持っているのか・・・。
巨大すぎて計れないのがこのレイヴンズ・ネストだという事もできるだろう。
今回受ける依頼は一通だけしか配信されていなかった。
依頼主 :クローム
前払報酬: 0C
成功報酬:28000C
クロームが開発中の新型兵器との実戦テストを行ってくれというシンプルな依頼だった。
腕の立つレイヴンなら誰でもいいそうだ。
相手になるのは完全な無人機で、場所はクロームの研究所内な為一切の遠慮は要らないという事だ。
ただし、報酬はその新型機に勝った場合のみだそうだ。なんでも手抜きをされては困るという事らしい。
レイヴン相手には少々役不足かもしれないがそれで金が入るのだから楽な仕事だろう、とまで言ってきている。その通りだ。
俺は他のレイヴンに取られないうちに早々に依頼を受諾し、今度はショップへと向う。
この前の依頼で手に入れた頭部パーツの性能はお世辞にもいい物とはいえない。
すぐさま売却して資金の足しにした。
余った金で今度は腕をいい物に買い換え、オプションパーツを購入して自室を後にした。
雷斬の機体修理と購入したパーツの取り付けが既に終わっているのを確認し、クロームの出迎えである運送車両へと機体を歩かせた。
クロームの実験施設へと案内された直後、クロームの通信士から雷斬のチャンネルに音声が送り込まれる。
「今回戦ってもらう実験機は、完全な無人タイプです。一切の遠慮はいりません。
全力で戦ってください。」
どうやら相手の方はもう準備万端というところか。
『戦闘システム 起動』
「フン・・・。」
雷斬を前方に見える奇妙な機体へとダッシュさせる。
敵の放ったエネルギーキャノンを機体を横に滑らせるようにして避けレーザーライフルを数発打ち込む。
上空へと逃げる敵の射撃を上下左右に機体を暴れさせながら避け、多少の攻撃を喰らうも合間に反撃する事でダメージを与えて行く。
敵の着地を狙いまたレーザーライフルを打ち続けていると、クロームの新型機は炎を巻き上げながらその場に倒れこむようにして沈黙した。
その直後、またクロームからの通信が入る。
「いいデータがとれました。
今後の参考にさせていただきます。お疲れ様でした。」
どうやらこれで終わりのようだ。
『戦闘システム 解除』
成功報酬:28000C
機体修理: 433C
計 :27567C
所持金額:33729C
現在のランク 12
第十五ミッション
企業同士の潰し合いが本格化してきたのは今に始まったことじゃないが、どうやら事態は最悪な方向に向っているようだ。
レイヴンズ・ネストの管理する、レイヴンに対しての依頼を掲載しているページに、二つの依頼が届いていた。
それも、同時にだ。
片方は今力をどんどん伸ばしているクローム社。
「秘密工場入口警備」報酬は32000C
彼らは自分達の地下工場に対しての破壊活動が画策されている事を察知した。裏にいるのはムラクモ・ミレニアムだろうと読んでいる。
どういった攻撃が仕掛けられるのかは全く判っていないが、地下工場のため侵入さえ許さなければどうという事はないそうだ。
そこで、工場入口の警護を任せられる人物としてレイヴンを広く呼び集めている。
ゲートはロック装置さえ破壊されなければ基地外から開ける事は不可能な為、クローム自身の本格的な警備体制が整うまで数日に渡って警護を続けるのが依頼内容だ。
その間に攻撃があろうとなかろうと報酬は支払うと言っている。
どうやらクロームは、レイヴンに都合のいいように依頼を配信するのが得意なようだ。
二通目は、何となくわかってはいたがムラクモ・ミレニアム社からだ。
内容は想像が付く。
「秘密工場入口探索」報酬はクロームと同じ32000C
ムラクモの予定している破壊工作の特殊部隊に参加してくれという事だ。
目的は勿論クロームの地下工場を探し出すこと。
どうやら工場の造りや侵入方法はわかっているらしく、探索し、開閉システムを破壊しろと直接言ってきている。敵に応戦する必要はないが、敵護衛部隊を破壊すればそれだけ報酬も増えるそうだ。
本体が突入する六分の間にゲートを探し出し破壊することが絶対条件だ。
ここでどういう選択をするかによって、些細なことではあるかもしれないが少なからず今後の二社の対立に関係してくるだろう。
クロームからはムラクモの、ムラクモからはクロームの手飼いだとでも思われると個人的に企業を敵に回す事になる。
一人のレイヴンとして生きるだけならばそれもいいのかも知れない。レイヴンの身の安全はレイヴンズ・ネストの威信にかけて守られているからだ。
だが、俺はそうは行かない。
俺の目的はレイヴンズ・ネストを破壊することだからだ。
それにはネスト本部からの信頼を得る必要がある。
そうする為に手っ取り早いのがランカーレイヴンになる事。
俺は立ち止まるわけには行かない。
ムラクモの依頼を受ける。
理由は簡単だ。俺にはクロームもムラクモもない。
警備よりも破壊の方が簡単そうだからだ。
秘密工場入口探索
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:32000C
一つオプションパーツを買うと、資金はほとんどなくなった。
雷斬に取り付ける作業を確認し、各レイヴンのACが係留されているフロアへ向った。
機体を運ぶ輸送機のに揺られながら待っていると、輸送機を操縦しているであろうパイロットから通信が入る。
「目的地点に到達しました。
六分後に本体が到着します、それまでに入口を探してください。」
「了解。」
短く言い放った直後に機体と輸送機を繋いでいたアンカーが外される。
同時に通信もブツっと言う音と共に遮断された。
『戦闘システム 起動』
先ずは探し回ることか。
ムラクモから受け取ったデータを雷斬のコンピュータにインプットさせてあるため、作戦領域はオートでレーダーに映っている。
とは言っても詳しい場所まではわかっていないので、大雑把な物だ。
雷斬を、その領域すれすれの場所を滑るように走らせながら辺りに目を走らせる。
「ん・・・。」
前方からのミサイルを機体を瞬時に横に向けさせて避ける。どうやら固定砲台のようだ。
レーザーライフルを、ジェネレータの容量に注意しながら数発撃ち、炎上し始めたのをみて再び走らせる。
ふと、目にコンテナが映った。
雷斬の手を使った蓋を開けると、中にはAC用のパーツのような物が入っている。
『AC用武器パーツ 入手』
暗くて良くわからないが、恐らくバックウェポンかなにかだろう。
ふとコックピットにぶら下げてある時計を見ると、時間は残り四分半ほどになっていた。
道草を食っている場合じゃないな。
火炎放射器を機体下部に取り付けてある円盤型のMTを遠距離から破壊しつつ進んでいくと、メインモニターにターゲットが表示された。
「あれだな・・。」
機体を突進させ、ロックオン・サイトに敵が入ってきた瞬間にそれらを撃破しつつターゲットに近付く。
地下へ続く巨大な門は閉じられており、一部だけ棒のように飛び出ている機械がある。あれが開閉システムをコントロールしているのだろう。
レーザーブレードで破壊すると、雷斬のコンピュータが自動で座標を送信した。
最初は聞き取れなかったが、段々とムラクモの通信が明瞭になっていく。
「座標・・・を確・・・し・・。・・・れより・・突入する。」
『戦闘システム 解除』
成功報酬:32000C
特別加算: 7200C
機体修理: 756C
計 :38444C
所持金額:39164C
ムラクモからメールが届いた。
発信:ムラクモ・ミレニアム
件名:工場襲撃報告
今回の突入作戦は成功し、大成果を上げたのだそうだ。
この結果は、作戦の鍵を握っていた俺のおかげだという事の報告のらしい。
まったく見事な仕事だったなどと言ってはいるが世辞だろうという事は容易に窺い知れる。
これを契機にクロームもやり方を改めてくれるといいが、あそこの連中の考え方は強引すぎる。というのがムラクモの考えらしい。そう思いませんか?と書いてはいるが返答などを期待しているわけではないだろう。
全ての人類が地上へ帰るためには正しい導き手が必要で、クロームはそれには相応しくないのだそうだ。これがムラクモの本音だろうか。
どうやら、人はまた地上へ還る日を待ち望んでいるようだ。
現在のランク 10
『派手さはないが、確実な任務遂行が注目されている若手のレイヴン。今後の活躍が期待される。』
第十六ミッション
当初の目的であるランカーレイヴンになることができた。
ここまでは順調に進んでいる。シナリオ通りと言うところか。
問題はここからだ。
先の侵入工作を行った事によって、クロームとムラクモの対立は確実な物になっただろう。
一つの国家、企業の小さな小競り合いが大破壊のような戦争を生む事は目に見えている。
地上の戦争と違う部分があるとすれば、それはこの世界にはレイヴンズ・ネストがあり、レイヴンがいるという事だ。
ガレージには見慣れない武器が置いてあった。
手に入れた武器だろう。投下型地雷のようだ。
使えないと判断し、ショップで売り払う。
それなりの金が出来たので、頭部パーツを売り、高性能な物に変えた。
埠頭倉庫警備
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:32000C
ムラクモの開発したAC用レーダーのサンプルが埠頭倉庫に保管されているが、何故か警備システムが全く機能していないため、その警備を行うそうだ。
成功条件はレーダーの死守。奪取は勿論破壊も許されない。
恐らく警備システムの不調はクローム関係者による人為的な物であるらしいが、システムが回復するまで誰一人倉庫に近づけるなとの事だ。
ムラクモはAC関係の仕事で一躍大手にまで進出してきた企業だ。その功績、或いは存在を妬むライバル社・・・即ちクロームが妨害工作をし、技術を自社で利用する事は十分に考えられる。
だが、可能性が高いとは言え依頼要請でまで名指して指摘するのは聊かやりすぎなようにも思える。そこまで両社間の対立が激しくなっているのが現状という事だろうか。
俺は買い置きのチョコレート・キャンディの一つを包みから出して口に放り込み、自分のコンピュータの電源をつけたまま部屋から出た。
今日も、自分が無事に帰って来れるように。
雷斬の係留されているフロアでは、まだ調整が終わっていないようだった。
機体の首から下はメンテナンスどころか塗装まで綺麗に終わっているが、いわゆる頭の部分にメカニックが数人かじりつくようにして作業をしている。
「どうしたんだ?」
コックピットへ向かう桟橋の途中で声を掛けた。
「新しくなったメインコンピュータのチャンネルを調節してたところです!もう終わりますよ!」
と、一人のメカニックが威勢のいい声を返して来た。
わかったと言う様なジェスチャーをして、コックピットハッチの中に体を滑り込ませる。
頭部を買い換えた事で、また機体の制御コンピュータが変わったせいだろう。
モニターには整備中を示す赤いランプが灯っている。
ぼんやりと眺めていると数十秒もしないうちにそのランプが消え、フロアの映像が映し出された。
メカニックはもう機体から離れているようだ。
後はムラクモの輸送機の元へ雷斬を歩かせ、目的地まで送ってもらうだけだ。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
不気味なほど人間味のある声が機体内部のスピーカーから聞こえると共に、敵機接近の緊急ランプが点滅を始める。
『敵戦闘機の接近を確認。機数、5。』
まるでオペーレーターから直接指示されているような感覚だ。
辺りにはいくつもの倉庫が建設されている。ダミーかそれとも紛らわしい場所に隠したのか・・・。そんな事を考えているうちに、雷斬のコンピュータが敵を感知した。
レーダーに映る機影の方に雷斬の持つレーザーライフルの銃口を向ける。
機体を左右に移動させながら、ロックオンサイトに敵が捕捉された瞬間に引き金を引く。
炎を上げて地面に墜落する戦闘機には目もくれず、次々と新しい目標を落としていく。
何機かは空中で爆散しただろうか。
『敵第二派出現。戦闘機及びMT、機数、3』
正確な索敵能力だ。
空から来る戦闘機一機を打ち落とし、前後展開するMTを、機体を回転させるようにして撃破していく。
倉庫を攻撃されるわけには行かない・・。
MTを撃破しても緊急ランプが消える気配がない。
『敵、第三派出現。MT三機です。』
こいつが本命か。
口の中のキャンディを奥歯で噛み潰しながら、機体を高くジャンプさせる。
小さく見える敵に向かって、ほぼ真上から数発のレーザーライフルを打つ。炎上する敵MT近くに着地し、倉庫の一つから機体を飛び出させ、もう一機撃破。
残りの一機はどうやら倉庫の陰に隠れているらしい。
一瞬迷ったが、これも上からの奇襲で沈める。
必要以上に雷斬の機体を高く飛翔させ、空の一部と化す。
急降下しつつもライフルの射撃に集中し、数発が放たれたのを確認してから、機体を元の場所へとターンさせた。
どこかで、何かが爆発する音が聞こえた。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬:32000C
機体修理: 1215C
計 :30785C
所持金額:59649C
現在のランク 10
第十七ミッション
この地下都市開発計画が進められた背景には一体何があるのだろうか。
大破壊以前の科学力と言うものは、現在を生きる人間にとっては魔法のような物だ。
そのほとんどを失い、かつての人類が残した遺産を巡る争いを起こしながらも、人類は確実にこの地に適応していった。
旧世紀と比べて明らかに劣る力しか持たない人類が、それまで足を踏み入れた事のない世界でこれだけの短期間でここまでの発展を遂げることが出来たことには、明らかに理由がある。
今の人類は、「それ」に縛られている。
地下深くに縛り付けられて、地上に戻ることが出来ない。
人類を地下に押し付け支配するモノ。
今の俺に残された本当の任務は、人類をここから解き放つ事だけだ。
端末にいくつかの依頼が配信されていた。
制御装置破壊
依頼主 :地球環境再生委員会
前払報酬: 0C
成功報酬:38000C
以前の依頼で俺が潜入した軍事施設についての依頼だ。
地下一層・・・つまり俺が依頼で通った辺りの調査は既に終了しているが、その過程でまだ下層に通じる通路が発見されたそうだ。
そこには一層よりもより強力なセキュリティメカが配備されて、まだその機能を失っていないらしい。
地球環境再生委員会の連中の装備ではそいつらを突破できないので、代わりにレイヴンに依頼ということか。
セキュリティメカ達は攻撃を仕掛けてくる訳でもなく、通路を通過しようとした者にだけ反応するそうだ。
一層で発見されたという構造図によれば施設の奥にセキュリティメカの制御装置が設計されているから、それを破壊しろということだ。
旧世界の兵器があんな程度のものかと拍子抜けしていたが、やはりまだ奥があったという事か。
どこか気持ちの悪い汗を拭きながら、俺は部屋を出た。
『システム、戦闘モードを機動します。』
依頼主が掘り進んだせいか、一匹の敵に会うこともなく下層への入り口にたどり着いた。
いざ進入しようとすると、オペレーターからの通信が入る。
『レイヴン、制御装置は全部で三つあります。発見次第、全て破壊してください。』
「了解。」
ボソっと呟いて機体を前に出した。ブツリと言う音と共に通信が遮断されたようだ。
扉を開けると、下層へ下る長い斜面状の道が続き、その先に一匹のMTらしきものが見えた。あれが恐らくセキュリティメカの強力な・・・重要な物を管理するよう指示された機体。
敵がこちらに気付くよりもはやく、エネルギーライフルを撃つと、意外とあっさりと敵は炎上した。
もしかしたら、過去の遺産などと言うものは虚像に過ぎず、現在の人類の方がよほど科学が発展しているのではないか。
コックピットの正面ディスプレイに僅かに映る、まだ熱の冷めていない砲身を見てそんな言葉が頭を過ぎった。
少し進むと、如何にも堅牢と言う扉が待ち構えていた。
「だが、こんなチャチな造りでは・・・。」
機体を扉の少し横へ向け、備え付けの操作パネルにレーザーブレードを振るわせた。
『ロック、解除されました。』
凛と響く機内通信を聞き、扉を雷斬の手でこじ開けさせた。
まだ奥深くに続いているようだ。
先ほどとはまた違うMTや天井に備え付けている砲台を撃破しながら進みつつも、機体の武器がライフルとブレードしかないのに若干の不安が残る。
いくら強力な武器とは言え、弾薬が底をつけば意味がない。
そんな不安を忘れさせるように、引っ切り無しにセキュリティメカの攻撃がこちらに飛んでくる。危うく回避させながらも、首筋に流れる汗を拭く事もできなかった。
さっきと同じような扉を何枚も超えていくと、雷斬の頭部メインアイとコンピューターが連動して、チィィインと鳴るのが聞こえた。
その直ぐ後に、コックピットにはターゲット確認の表示が現れた。
なるほど、そういう訳か。
機体をその方向に進ませながらも、コンピュータに記憶させてある基地内部の構図をサブモニターに呼び出させた。これでいくらか進むのも楽になりそうだ。
が、途中で雷斬の機内通信がオンになると同時に、緊急用の赤いランプがコックピット内部に広がった。
『高エネルギー反応を確認しました。電磁バリアです。』
「・・・。」
文字通り絶句せざるを得ない。
目の前に移るディスプレイには、淡い緑色をしたバリケードのようなものが映っている。
ここを突っ切るしか道がないのは内部構造図を見て既に判っている・・・が、ここを通る事が出来るのか。
少しの間解除装置か制御コントローラーがないかと探したが、見つからない。やはり突っ込むしかないようだ。
グっと奥歯を噛み締め、操作パネルを思い切り前に押し倒した。
体に掛かるGを体感しつつ、眼は閉じずに正面を見る。
「グッ・・・!」
バチっと言う音が機体を焦がし、機体の内部まで電磁波が通ったのがわかった。
体の痺れも中々収まらない・・・。
操作系統に異常がないのを確認しながら、まだ雷斬を前に進めなければならない。
またあんなバリアがあったらと思うとゾっとするが、機体の目はターゲットをしっかりと捉えていた。
「あれか。」
機体をジャンプさせてからブレードを振らせ、一撃で破壊した。
地図を見ると、三つの制御装置は比較的近くに密集して作られているようだ。
二つ目を壊してサブモニターに視線を移すと、三つ目は近くなものの壁の反対側のようだ。
迂回しなければならない。
また沸いて出たように襲ってくるセキュリティメカを倒しながら進む。
幾度目か、天井の砲台を狙撃しようとトリガーを引く・・が、ライフルの弾は発射されず、迎撃の弾が雷斬のあちこちで弾けた。
「こんな時に弾切れかよっ!」
慌てて機体を立て直し、横道に機体を隠した。こうなったらもうレーザーブレードで敵を倒していくしかないが、接近すればするほど反撃も喰らう。雷斬の耐久力を信じて機体を影から飛び出させようとした時、一つの塔のような物が見えた。制御装置だ。
どうやら、逃げ込んだ横道にひっそりと建造されていたらしい。
俺はため息をつくと、また雷山のレーザーブレードを振り下ろさせた。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬:38000C
特別加算:12000C
機体修理: 6413C
所持金額:64736C
現在のランク 9
『派手さはないが、確実な任務遂行が注目されている若手のレイヴン。今後の活躍が期待される。』
第十八ミッション
目が覚めた時、闇が体の回りを支配していた。
飲み物だけを冷やす冷蔵庫とエアコンの薄気味悪い音が耳につく。
枕元に置いてあるデジタル時計は、まだ一日が始まって三時間も経っていない事を告げた。
どういうわけか目が冴えてしまった。
仕方なく起き上がって冷蔵庫を空け、水を取り出して一口飲む。
部屋の隅にある端末の電源は入れっぱなしだ。
小さく、依頼が受信された事を告げるマークが明滅を繰り返していた。
他にやる事もないので、自然といつものように端末のすぐ前に備え付けてある椅子に腰掛けた。
いくつかの依頼が配信されている。
その中の一つである「脱走者処分」という題目のついた依頼を受けた。
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:5000C
元レイヴンである「プラス」の次世代レベル実験の被験者がACと共に研究所から脱走した。
内容までは口外できないが、「ある実験」が被験者の精神に悪影響を及ぼしたらしい。
目撃者の証言では完全な錯乱状態にあったのだそうだ。
街中でACで暴れた後は地上に逃走し、現在は旧市街地の高層ビル屋上に潜伏している事が判明している。
放って置く訳にも行かないので、現場に向かってACもろとも処分しろという依頼だ。
ターゲットが逃走の折、ムラクモの試作したAC用パーツを持ち出したらしく、発見した場合はこちらで処分してしまって良いとの事だ。
現在強化人間の技術はまだ完成段階とは言い難い物があるという事だろう。
ショップを赴き、ACの核となるコアパーツを高価な物に買い替え、バックウェポンのリニアガンを購入した。
資金がほとんど底をついてしまったが、取り戻せばなんとかなるだろう。
深夜にはレイヴンズ・ネストのクルーも作業を停止しており、フロアへ向かう途中の道は薄暗い常夜灯の光だけが満たされていた。
『強化人間か・・・。』
ふと頭に浮かんだ嫌な考えを振り払うようにして、雷斬のコックピットに飛び乗った。
心地よい振動がシートから伝わり、数々のセンサーやカメラが起動していく。
この時間では誰も居ない為、ムラクモの出迎えの所までは自分で移動させなければならない。
巨大な金属の塊は、程なくして地表の空気に触れた。
『システム、戦闘モードを起動します。』
骨組みを微かに残しているに過ぎないビル郡の中を、風が荒々しく通り過ぎていった。
機体に容赦なく叩きつけられる風圧と、かつて見たことのない「高さ」に多少戸惑ってしまう。
「これが地上か・・・。」
俺もこうして出て見るのは初めてだ。
空は黒い。黒い雲のようなもので埋め尽くされており、高度数千はあろうかという場所までも砂塵が舞い上げてきている。実際にはそこから発生しているのだろう。
地下から延々と続くAC用の仮設エレベーターのような物で、機体ごと屋上へ運んでもらう算段だ。
ふと、無機質で彩りの無い世界には似つかわしくない採光を放つ物が見えた。
あれがどうやら、被検体の持ち出したパーツのようだ。
雷斬の機体を風で飛ばされないように調整しながら近づけ、バックパックに備え付けてあるラックに引っ掛けるようにして持ち帰ることにした。
一度エレベーターから降りてしまったので、後は自力で登っていくしかない。
雷斬を大きくジャンプさせて、一気にビルの屋上を飛び越えた。
同時に、雷斬のメインコンピュータがターゲットの生命反応と映像をインプットされた情報と照合する。キィンという回転音がコックピットに伝わると同時に、真っ赤な閃光が目の前の柱を焼いた。
照明弾というほどではないが、壁や地面に当たった瞬間だけそこがパッと明るくなり、一瞬後には焦げた空間のみが残った。
「チィ・・。まだか。」
雷斬を柱の影に隠しながらも、ターゲットの特定が終わるまでは手を出せない。機体の背中にあたる部分と接している柱が、幾度目かの砲撃で崩れ始めた。
振り返る・・と同時に、メインモニタに「ターゲット確認」のマークが出る。
「悪く思うなよ・・。」
俺は、機体を上空にジャンプさせてから、エネルギーライフルの弾をたたき付けた。
何度光の矢がその機体を貫いただろうか。雷斬に回避運動を取らせながらも着地する頃には、目標は既に機体のあちらこちらから炎が吹き出ていた。最早修復は不可能だろう。
機体が徐々に炎に包まれていくのを見ていると、いきなりコックピットに直接回線を開く人間がいた。
本来ならば顔から胸の辺りまで見えるはずの映像部分が、砂嵐で見えなくなっている。
『レ、レイヴ・・・ン・・・気・・・をつけ・・・。お前・・・も・・・・・。』
目標は空中で爆発四散した。
『作戦目標クリア。システム、通常モードへ移行します。』
成功報酬:5000C
機体修理:1174C
計 :3825C
所持金額:9312C
そろそろ夜が明けようと言う時間に自室へ戻る。
さきほどの男は何が言いたかったのか。・・・俺も・・・強化人間の実験体にされる?
「馬鹿馬鹿しい。」
入れっぱなしの苦いコーヒーを一口だけ飲んで、端末を起動させると一通のメールが届いていた。
発信:R
懸命:プラス(Puls)
強化人間の技術と言うものは非常に高度且つ複雑なもので、逆に非常に不安定な側面を持っていることもまた事実だ。今回のように実験体の暴走によるアクシデントは珍しい事ではない。
という内容だった。
ムラクモの生み出した強化人間技術は、一体何の為に、そしてどうやって手に入れたのだろうか。
空になったコーヒーカップの底を見つめてみても、その答えはわからなかった。
現在のランク 9
第十九ミッション
地下の世界に季節という概念は存在しない。だが、地上の世界を彷彿とさせるデザインや雰囲気作りと言った物は、どの都市に行っても必ずと言っていいほど存在している。
たとえば、今俺がコーヒーを飲んでいるカフェ・テラスには真上から強いライトが反射鏡を通じて降り注ぎ、気温は汗が吹き出るほど暑めに設定されていたりする。
客の中にはサングラスをかけたり、いかにも「南国」という雰囲気のシャツを引っ掛けている者も多く見られたりするのだが、そんな作り物の季節であっても、人はそれがあれば安心が出来る生き物なのだろう。
事実、生まれてから成人するまでは古い資料のコピーや、残された数少ない写真等でしか知らない全盛期の地上世界であっても、想像の力は自分がそこに居ると信じさせてくれるものだ。
テラス・・正確にはそれを模した造りになっている部屋の天井に、小さいテレビでニュースが垂れ流しになっている。
既に外気と大差ない温度までぬるくなったコーヒーをぼんやりとしながら飲んでいると、生真面目そうなニュースキャスターが興味深い話題を放って来た。
ムラクモ・ミレニアム社の宇宙開発計画が実現可能なレベルまで進んでいる事と、正式に発表されたと言う。
ムラクモは地下でも地上でもない、宇宙を手に入れようとしている。
それは、大破壊以前の科学力を持ってしても完全には成しえなかったことだ。
地下世界を支配しようとするクローム、地上の再生を目指す科学組織やテロリスト、そしてムラクモ・・・。
各個に求める物が違うはずの団体のいがみ合いが、また戦争を呼ぼうとしている。
顔を上げると、既にそのニュースキャスターはアイザック・シティに出没する変人を探すドキュメンタリーの為に、車の中で中継していた。
たかだかアイスコーヒー一杯の代金であっても、逆に企業を動かせるほどの大金であってもこの世界での共通の貨幣は「カード」により流通させることが出来る。
もう少し正確に言えば、貨幣などと言う物は存在しない。あるのは物やサービスを買う為の数字だけだ。
大昔のように、バッグやサイフの中に直接価値あるものを入れておくという習慣は危険すぎる時代だと言えば解りやすいだろうか。
現在のカードは個人の情報を介して使用しないと効力が発揮されない。当たり前の事だが、本人以外が使おうと思えばそれは犯罪となる。
複雑なパスワードであったり、指紋、声紋のチェックをクリアーしなければならないのは、大きな金が動く場合であれば常識だ。
比較的簡単に済ませられるのが、こういったその場でしか提供できない飲食店やサービス業の支払いである場合が多い。いつ合法的に壊されるかも知れない場所であるにも拘らず、いや、だからこそかもしれないがこういう場所での金の動き方は大雑把だ。
ここは、カードを入れて指紋の照合だけすれば勝手に講座から金が引き下ろされる。
ACのパーツを売買出来る立場の人間であれば、コーヒーの一杯くらいは無い様な物だ。
電子版の中だけで管理される個人の情報や権利、金は、マザーコンピューターが狂ってしまえば何も出来なくなる事を意味しているとも言える。
それを何十年も管理し続けているのが、現在の人類だ。
久しぶりに戻ったACのコックピットは静か過ぎるように感じられた。
「各部のケーブル、センサー、アタッチメントに異常はないな?」
『大丈夫ですよ、何度もメンテしたんだから。』
解っていながら質問してみても、返って来るのはやはり同じ答えだけだ。
「よし、出るぞ。」
ACの操作系統は主に数本のレバーとペダルによって構成されている。
規格品を使わざるを得ないコアパーツは、どれも全く同じだ。
軽くエンジンを吹かしながら、機体を前進させていく。
『ご武運を!』
体をシートに締め付けるベルトが、いつもよりもきつく感じた。
今回の任務は、簡単なテロリストの撃滅だ。
報酬はムラクモの新型パーツ。
ムラクモの施設に侵入したテロリストが数両の戦車を強奪して逃走した為、それを追って撃滅するのが依頼の内容だ。
戦車が逃げた方向は、戦時中の地雷がまだ埋まっているザーム砂漠と呼ばれる場所らしい。
『作戦領域に到達しました。この地域には地雷が沢山あります。気をつけて行動してください。』
最後の方のオペレーターの注意は聞こえないまま、機体とムラクモの輸送船が分離した。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
機体が地面に着地する間にも、敵のミサイルやロケット弾が容赦なく飛んでくる。
一度機体を空中に飛び上がらせてから、狙撃していく。
戦車と言えどACの火力の前には太刀打ち出来る物ではない。
しかし、流石に全方位のミサイルを避けきれずに、何度か機体のディスプレイが真っ赤に焼け付くかと思えた。
なんとか致命傷を受けないように機体を振りながら撃破していく。地面にポツリポツリと見えるのが、恐らく地雷だろう。
踏ませないように注意しながら、レーダーと照準、そしてエネルギー残量を確かめて、もう一度機体を飛び上がらせた。
戦車は思ったよりも容易く炎上し、砂漠の一部となった。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬: 0C
機体修理: 2179C
計 :−2179C
所持金額: 83383C
自室の端末にメールが一通送られていた。
レイヴンズ・ネストからAC用の新パーツがショップに出ているとの宣伝だった。
一通り確認して興味を引かれる物がない事を確認した後、ベッドに横になった。
現在のランク 7
他の新人レイヴンに比べ、任務の達成率が非常に高い。
経験を積めば必ずランキング上位に上れる逸材。
第二十ミッション
順調にレンヴンとしてのランクを上げている現状は、ひとまず俺の描いたシナリオと大きく外れてはいない。このまま進めばランカーレイヴンとしての活動も増え、次第に俺の行動のおかしな部分に気付く輩が現れ始めるだろう。
そう、たいして依頼の数をこなしたわけでもなく、しかもついこの間レイヴン試験に受かっただけの人間にしては、俺の任務成功率は異常だ。
始めは誰であれ何度も何度も失敗を繰り返し、簡単な敵を相手にするだけの模擬戦を繰り返し、それでも任務を失敗してやっと実践のやり方を覚えていく。
その中で運よく生き残って行った者だけが上り詰めることが出来るのがランカーレイヴンの本来の姿だ。
恐らく、ランカーレイヴンの誰であっても任務の失敗経験はあるはずだ。
俺と、あのハスラー・ワンを除いて。
俺が何故ここまでACを好き勝手に操れるのか。それは、俺が一度レイヴンズ・ネストの雇用名簿から抹消された男だからだ。
ある一つのネスト支部と共に、俺は自分自身の存在を一度消滅させた事がある。
そして今は勿論偽名を使い、もう一度新人レイヴンとして活動を始めたというわけだ。
バレないのか?バレない。
ネストは企業や宿舎とは違い、自分の元で働くレイヴンの個人情報などは一切集めようとしない。
それは、レイヴンズ・ネストから来る最初の手紙の内容が
「レイヴンを目指す者に対し、我々は唯一の試験を行わせてもらう。与えられた機体で戦闘を行い、生き残る事。その瞬間から君はレイヴンだ。」
と書かれている事からもわかるだろう。
ようするに、誰でもいいという事だ。レイヴンとしての腕だけがあれば、それでネスト側から必要な情報は全てクリアしている状態だと言ってもいい。
言うまでもないが、以前こことは違うレイヴンズ・ネストに登録されていた俺は、死亡者扱いだ。
まず、この前の依頼で報酬としてもらったオプションパーツを、端末を通してショップに売る。
どうも資金が以前よりも減ったままというのは気に入らない。
性能はミサイル装備時のロック・オン機能を向上させるもので、敵を捕捉してからミサイル発射までの時間を短縮させるものだ。
ACに取り付けられたミサイルは熱誘導ではなく、『目』を通してFCSが敵だと判断したものに反応して追尾する。
そのせいか敵を発見してからミサイルが発射可能になるまで、若干の間が生じる仕組みになっている。
発射可能まで敵をロックオンサイトに捉え続けなければリセットされてしまうため、この間が短くなるのはパイロットとしては非常にありがたい。
が、ミサイルを装備させていない俺にとっては無用の長物だ。
航空機護衛
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:32000C
このところムラクモの輸送用飛行船が正体不明の連中に何度も襲撃を受ける事件が起こり、そのどれもが撃墜されているらしい。
単純に攻撃して墜としているだけだから物資が目的なのではなく、ムラクモの邪魔がしたいだけの何者かの差し金だと推測される。
本格的な護衛団を雇ってもいいが、そうなると余計にムラクモ社のイメージダウンになってしまうため、事が公にならないうちに密かに相手を撃退してくれという事だ。
襲撃は毎回輸送中の空中でやってくる傾向があるため、今回も一緒に搭乗しての護衛になるそうだ。
やれやれ、時間が経過するごとに過激になっていく企業間の対立に巻き込まれていく方の身にもなってもらいたいもんだ。
売却したオプションパーツを倉庫の外へ移動させる作業の合間を縫って機体の各部をチェックしていく。
「コックピット周辺の気密は完璧にしておけよ!」
作業の音に掻き消されているとは思いつつも、メカニック達の無線に怒鳴りつけて発進OKのサインを待つ。
暫くして、俺と雷斬は地上をどれほど離れているか解らないほどの高度へ持ち上げられていく。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
左右に分割され、中央下部をいくつかの柱で結合させた形状の飛行船の柱の一つに立った機体をジャンプさせる。空一面の青が視界に入ると同時に、機長からの直接通信が入る。
『こちら機長。正体不明機の接近を確認した。恐らくやつらだ。頼んだぞ。』
正面から規則正しい隊列で突っ込んでくる敵を一望し、射程距離に入って来たものを順々に落として行く。
「一つ!」
敵の戦闘機は、こちらにACがいることを想定していなかったのか、それともそれ以上の物を送り込んでくる余裕がなかったのか、レーザーライフルの一撃で簡単に撃墜される、小型のものだった。
「二つ!」
ACに旋回を掛けさせながら、レーダーに映ってくる敵影をキャッチして打ち落としていく。
「三つっ!」
・・・敵の攻撃がやんだ。
ヒットアンドアウェイの要領でしか攻撃できない奴らにとっては、必ず生じる間だ。
こちらの乗っている輸送用航空機も、スピードが無いとはいえ移動しているため、再度合間見えるまでにはまだ間があるだろう。
小さく息をつき、間隔を研ぎ澄ませる。と言っても、別に耳を澄まして外の音が聞こえるわけもないし、まして自分に接近してくる敵を感知する能力などはない。
ただ、機体の外部スピーカーを通して、耳をつんざくようなカン高い音が近づいてくるのはわかった。
「四つ!」
どうしても軌道が単調になりやすい戦闘機などは、こちうらからすればいい的でしかない。
「五つ、六つ!」
編隊を守って攻撃を仕掛けてくる敵を、手際よく落とす。
「七つ!」
不注意にこちらに正面から近づいてくる一機を落とす。
「八つめ!」
上手く航空機の機銃を攻撃しながらこちらの真上付近を旋回する一機も、気流に流されないように機体を操りながら高度をとる事で簡単にロックオン・サイトの中に招き入れる。
「九つ!」
攻撃をやめ一旦船から離れようとする一機を後ろから射抜く。
「十!十一!」
自分の目の前を左右に移動する戦闘機を、一瞬で射抜く。
「まだいやがるのかっ・・・!?」
先ほどの戦闘音が嘘のように静まり返り、輸送機の発する大人しいエンジン音だけが辺りに響く。
暫くの間、そうして息の詰まるような静寂の中でじっとしていたが、突如スピーカーから懐かしい声が聞こえる。
『ご苦労、どうやら敵の機影は完全に消滅したようだ。感謝する。』
「終わったか・・・。」
一度大きく深呼吸して、目的地に着くまではこのまま少し眠ろうとコックピットの座席を倒した。
成功報酬: 32000C
機体修理: 813C
計 : 31187C
所持金額:153249C
現在のランク 7