『大破壊』と呼ばれる、最後の国家間戦争によって、人類は地上からその姿を消した。
厄災を生き延びた僅かな人々は、破壊されつくした地上を捨て、
その住処を地下へと移していった。
膨張した人口を支えるべく、各地に建造されていた地下都市が、
人類に残された大地となったのである。
人はその始まりの時と同じく、自らの過ちによって楽園を失った。
半世紀後。
人類は再び繁栄を迎えていた。
「国家」と言う概念は既に無く、それに変わって人々を導き、
あるいは支配したのは「企業」だった。
自由競争の名のもとの苛烈な競争の原理は、
世界を急速に回復させはしたものの、それに伴う歪みもまた確実に増大していった。
貧富の格差、テロリズムの横行、人種差別・・・
人類が生み出した壁は、なお消えずにいた。
支配者となった「企業」はより強い権力と金を求め、
そこに争いが絶えることは無かった。
第二十一ミッション
レイヴンズ・ネスト本部。
この地下都市に数え切れないぐらい存在するレイヴン用の宿舎とは違う、レイヴンと言う存在を管理する巨大組織の総本山。
その所在は不明とされている。
そこを一般的なアクセスでは絶対に辿り着けないよう、様々な防壁を随所に張り巡らせているかのように。
例えば、ネストから支給された部屋にある端末で本部の場所を特定しようとすると、端末にエラー表示が出ると言ったような防壁だ。
クロームやムラクモ・ミレニアムの本社などはニュースでも流れるし、雑誌等でも容易に窺い知ることが出来る。だが、レイヴンズ・ネストはその所在や外見はおろか、情報すら全くと言っていいほど出回っていなかった。
だが、ネスト本部の情報を収集する際、ただ一つだけ、アングラの出版物で興味を引かれる一文を発見した。
『レイヴンズネスト本部等と言う物は本当に存在するのだろうか・・・?』
それは存在していなくては辻褄が合わない。
だが、この光の届かない地下世界で、更に闇に覆われたようにその存在が掴めないソレの実態がなんであるのか、それを知る必要がある。
必ず辿り着いてみせる。
墜落機処理
依頼主 :クローム
前払報酬:15000C
成功報酬:25000C
先日、クロームの特別輸送機がナグラーダ地方と呼ばれる砂漠地帯で墜落した。
衛星からの映像でビッグヒットと呼ばれるクレーターの中心部分に残骸が確認出来た。
積荷はどうでもいいが、墜落した輸送機のコンピュータに記録されている取引記録を他に知られては不味いという事だ。
確認が取れたわけではないがムラクモの部隊が動き出したと言う情報もあり、ムラクモより先に記憶ユニットを載せた機種部分を破壊するのが目的だそうだ。その際にムラクモの部隊と接触した場合、残らず殲滅すると言う条件もある。
一応データは暗号化されているが、安全とは言い切れない。
もし敵と接触した時の事を考え、機体後部に取り付ける中型ミサイルと、ロックオン時間短縮用のオプションパーツをショップで購入する。これで多少の敵戦力とはやりあえるはずだ。
もう一度依頼画面を呼び出し、画面も見ずに以来承諾のサインを送り、雷斬の繋留してあるフロアへと急ぐ。
「面倒な事になる前に退散したいからな・・。」
無機質な廊下に、心地よい足音が反響している。
「出来るだけ急いでくれ!」
コックピットに走りよりながら、ついさっき購入手続きを済ませたばかりのパーツを取り付けるメカニックに呼びかける。
「わかりました!・・・でも、そんなに早くは無理ですよ!」
半端じゃない音がそこかしこで鳴り響くフロアでの会話は、自然大声の張り合いになる。
「頼む!」
出撃の手際を少しでも短縮する為、乗り込んで動作のチェックをする。
どうやら武器とオプションパーツの接合は上手く行っているらしい。
『シュミレーションなんぞやっている暇はないから、出るぞ!』
作業を終えたメカニックが機体から離れるのを確認もせずに、マイク越しに叫んだ。
『目標地点です。墜落機の機種部分はクレーターの中心にあります。それを破壊してください。』
「・・・了解。」
目の前には、一面の砂漠。いや、既にもう十数分は同じ景色が広がっていた。
クレーターらしき、砂漠の中の黒い「点」を見つけた辺りから、こうして雷斬と俺を乗せた輸送機は敵の猛攻を受けているのだが。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
輸送機から雷斬が落とされる。同時に、敵の攻撃もこっちへ向いたようだ。
『目標周辺に機影確認。機数、5』
レーダーから読み取った情報を適切に伝えるコックピット内の音声。しかし、こっちはそれどころじゃない。
反動の強いハンドガンで周辺から弾丸を喰らい、身動きが取れず、それどころか機体を動かす事もままならない。
「この野郎っ!」
一度、大きく機体を上空へとジャンプさせた。
この大地に穴でも開いているかのような強い風が流れている・・・。
大破壊後の地表は、どこもこんな吹きつける風が吹いているようだ。
クレーターの中心にある目標と、大雑把な敵機の場所を確認する。
「OK・・!」
そのうちの一匹目掛けて、上空からレーザーライフルを連射しながら落下する。
炎上する機体の陰に落ちたのと、着地の際の砂埃で機体を隠す。そこから射撃してもう一匹も炎上。
今度は地上をブーストを吹かし、横滑りするように移動しながら攻撃して撃破。
遠距離にいる二匹のうち一匹をミサイルで弾幕を張りながら接近して、ブレードで一閃。
闇雲にハンドガンを撃ってくる敵も、射程外からレーザーライフルで撃って撃破。
所詮はムラクモと言う企業の兵隊でしかない連中だ。束になった所で、レイヴンのACと互角に戦うのは難しいだろう。ムラクモ側からしても、自分の下にいる一個戦力が大きくなりすぎるのは得策ではないと判っているだろうし、レイヴンを雇う選択を取ったクロームの戦略勝ちと言う所か。
「さて・・・」
と、機体をクレーター中心に向かわせようとした所でコックピット内が血のような赤で支配される。
『敵の増援を確認しました。ランカーACです。』
無機質な声がコックピット内に広がる。
『敵ランカーACを確認しました。神威mk17です』
ゆっくりと、見慣れた輸送機から青い戦車のようなシルエットが落下していくのが見えた。
丁度、墜落機を挟んでクレーターの対極にいるような状態になっている。
「こっちの出方に合わせてきたか・・・?」
いや、俺が戦場に着てからでは早すぎる。とすると、やはりあちらも元からレイヴンを向かわせる予定だったのか・・・。
相手の動きを見ながら機体を止めていると、不意にミサイルが飛んで来る。あちらはその気のようだ。
「考えている暇はないか・・。」
まるで宣戦布告のように、単純な軌道で飛んでくるミサイルを交わし、こちらもミサイルの照準を合わせる。
すると、ある程度近づいてから敵の光弾が無数に飛んできた。
その内のひとつが機首部分に当たり、軽い爆発を起こした。どうやら俺を始末するのだけが仕事のようだ。おかげでこっちの仕事は減ったが、あのエネルギー弾は見た目以上に強力なようである。
「チッ」
舌打ちして機体を暴れさせる。ある程度動きの先読みをしてしまうACの攻撃は、小刻みな動きに弱い。
しかし、そうは言ってもどうしても出来てしまう隙に光弾が炸裂する。
一瞬コックピットが光に包まれ、目が焼かれる。だがそんな事で動きを止めてしまってはただの的だ。
機体をジャンプさせながら、何とか体勢を立て直し、レーザーライフルを連射する。
敵の射程は広い。短期決戦でやらなければ恐らくこちらに勝ち目はないだろう。
単純な打ち合いでは二脚ACがタンク型に遅れを取ることは無い。
数発光の矢を受けた青い戦車は、次第に炎に包まれ炎上していった。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬:25000C
弾薬清算:−4160C
機体修理:−7470C
計 :13433C
所持金額:68882C
「ふぅ・・っ」
自室に戻り、流れ出る汗を拭いた。
レイヴン・・。互いの思想や正義など関係なく、ただ金の為に依頼された事をするだけの存在。
時にはいがみ合いを続ける企業に雇われたレイヴン同士が殺し合う。なんて事は珍しくもない。
そこには何もない。互いの思想も正義も、たった一つの意味でさえも・・・。
現在のランク 5
他の新人レイヴンに比べ、任務の達成率が非常に高い。
経験を積めば必ずランキング上位に上れる逸材。
第二十二ミッション
目の前には、ただ揺れる世界だけがあった。
その激震は止む事がなく、ただ人間の思考をパニックへと向かわせる。
「唯!唯!?」
揺れすぎてその形がわからなくなっている世界で、お袋の声がする。
何が・・起こったのか・・・?わからない・・・・。
部屋の窓から見える無機質な世界に突如として現れた「MT」と呼ばれる兵器が、何かをしようとしているな、と思った瞬間には、いつの間にか今と同じ状況になっている。
「母さん・・!大丈夫だ!」
早く、出なければ・・。
ここから逃げなければ・・・死んでしまう。
ふ―――と。
本当に一瞬。人間と言う生命体には数える事が出来ないくらいの短い一瞬だと思う。
世界から揺れが無くなった。
ひび割れて外の様子がよく見えない窓ガラス。本棚からぶちまけられている参考書や漫画本。
自分でも驚くくらい一瞬で、驚くくらい正確にその惨状を目撃していた。
そして、俺の目がその時最後に捕らえたのは、ひび割れたガラスの向こう側にある、古ぼけたフォルムの機械。そしてさらにその向うに光る真っ赤なモノアイと、その単眼の持ち主らしいスマートな機械の肩口から、それとは似つかわしくない、世界を丸ごと消滅させてしまうような光が飛び出した光景だった。
音がこの世から消えた。
先ほどよりも激しい揺れが世界を襲い、思考が遮られる。
早く、出なければ・・。
ここから逃げなければ・・・・・。
「く・・・・っそ!」
歩くこともままならない。本当に自分が歩いているのかさえもわからない揺れの中で、家の外へ出る。
自分で何がしたいと思ったわけではない。
ただ、その赤と黒で染められた冷たい鉄の塊が上空から降りてくる様を、俺はただ睨みつけていた。
どれだけの間そうしていたのかはわからない。数分間かもしれないし、ほんの一瞬のようにも思う。
その人型の機械が持つ「目」が、再び鋭い光を発したように見えた。
それとほぼ同時に動き出す世界。
視界から消えたその人型のシルエットを埋めるようにして、光が数条、飛んでくる。
あぁ、あれはきっと銃弾なんだな。とどこかで考えていた。
まだ回り始めてくれない頭で、視界に入るもの全てを見渡してみる。
煙が立ち上る家・・・ビル・・・・機械・・・・。
そこら中の地面が焼け剥がれ、この地下に作られた空間の中で、機械が動き、弾を撃ち合い、そして何かが爆発する音が止む事なく鳴り響いている。
あぁ・・そうだ。
「みんなっ・・・!」
今・・・本当につい数秒前に出てきた家を振り返る。
と同時に、目の前にはまた一つ大きな影が落下する。・・・どうやらあの人型ではないらしい。
こちらの思う事を察するようにしてビルの陰から現れた機械は、何の迷いもなく、正確に何かを射出する。
それが何かはわからなかったが、今俺の目の前にあるこいつを破壊する為に放たれた物であると言う事はわかった。
それが、自分にとって正しい行動だったのかどうかはわからない。
ただ、俺は自分の防衛本能に従って、頭をガードしてその場に突っ伏した。
辺りを包み込む閃光。
仄かに香る火薬と鉄の焼ける臭い。
自分に叩きつけられる、鉄やレンガの破片。
そんな感覚が過ぎ去り、顔を上げると、目の前にはあの赤と黒に染まったスマートな機械がいた。
それまでただの冷え切った鉄の塊にしか見えなかった機械に一つだけ、マークを見つける。
真っ黒い円の中に、鮮やかな黄色で『9』と書かれている。
―――ナインボール。
それはビリヤードで使われる、ゲーム・セットを告げる球。又はそのゲームの名前だったと思う。
その映像を最後に気を失ってから、俺が目を覚ましたのはテロリスト襲撃事件の一週間後だった。
それまで一緒に生活していた人間が一人残らずこの世から消え去ってしまったと知らされたのは、それから三時間後の事だった。
・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・夢を見ていた。
薄暗い部屋の電気は常に少量だけ光を出している。
その鈍い光は、どこか心を穏やかにさせる。
見慣れた部屋でゆっくりと体を起こす。不思議と、体には簡単に力が入った。
これ以上寝ている理由もないので依頼を確認する。
航空機護衛
依頼主 :ムラクモ・ミレニアム
前払報酬: 0C
成功報酬:34000C
遺伝子工学の権威、M=オカムラ博士の護衛が任務だ。
博士の研究を誤った解釈で理解する連中がおり、そのためこれまで何度か脅迫行為を受けてきた。
そして、今回のアイザック・シティへの来訪にあたり、テロ組織から襲撃予告があった。
博士は現在社の研究所に滞在中で、数日中にはアイザック・シティを発つ。移動には航空機を使う予定で、その離陸の際の護衛をお願いしたい。
との事だ。おおかた強化人間の研究を、人間の尊厳を侵害する行為だの何だのと迫害する人間だろう。
その考えには異論はない。だが、俺はレイヴンであり、そんなちっぽけな主義で自分の信念をどうにかしようとも思わない。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
待機していた場所には、今まで写真や古いビデオでしか見たこともないような「空」が広がっていた。
ムラクモ社は好んで地上の風景を再現していると言うが、自社の周辺にこんな細工までしているとは驚きだ。丁度夕焼け頃なのだろうか?見事に天井モニター全面を鮮やかな紫色で覆っている。所々雲のような物も見える。大破壊以前の地表にいると言うのは、こんな感覚なのだろうか。
だが、やはり地下都市を思わせる電波受信機や通信用のコンテナなんかを見ると、無理をしていると言う気がしないでもない。
そうして周辺を見回していると、M=オカムラ博士の乗っていると言う飛行機が格納庫から滑走路へと出てくるのが見えた。それとほぼ同時に、ムラクモから強引に通信が入る。
『管制塔よりレイヴン。所属不明機3機が接近中。注意してください。』
いかにも仕事をしています、と言った感情の無い声が聞こえてくる。クロ−ムと比べると、社員の教育は律儀に行き届いているようだ。
「了解。」
通信を切る。既に大型輸送機が3機こっちに向かっているのが肉眼で確認できた。
急いで機体をその下に潜り込ませる。恐らく爆撃ではなく、その中に乗っているMTかACによる攻撃だろう。出鼻を押さえてやる。
少しすると、動きを止めた輸送機からバラバラと小型のMTが落下してきた。
『管制塔よりレイヴン。滑走路上の敵を排除してください。』
言われるまでも無く攻撃を開始している。
2,3匹を撃破する間に、その爆煙の隙間を縫うように飛んでくるミサイルに当たる。迂闊だった。
「まだいやがるのか・・・」
機体を大きく揺さぶって視界をはっきりさせる。まだ滑走路から飛行機に近づけない2機の・・・小型の車のようなMTも撃破する。
が、1匹を上手く視界に捉えられない。こちらの死角に回り込むようにして移動する。
「コイツっ・・・!」
『管制塔よりレイヴン。敵輸送機が接近中。増援部隊です。』
「そんなこったろうと思ってたがなっ!」
慌てて1匹を撃破するも、その間に地表に落下した同型MTからミサイルの雨が雷斬へと降りかかる。
少々危険だが、機体を後退させて、敵の攻撃をやり過ごす。同時に、1匹に狙いをつけて撃破した。
しかしすぐ後ろにある飛行機を攻撃させるわけには行かない。
もう一度全身し、機銃を数発喰らうのも気にせずにもう1機も撃破。
「後一匹ッ・・・」
レーダーを素早く移動するMTを補足しようとした所で、また通信が入る。
また増援かとうんざりしていると、今度は先ほどとは打って変わって、ランチルームで世間話でもするようなリラックスした声が流れてくる。
『レイヴン、ご苦労さま。博士は先ほど別の空港から無事離陸しました。』
なんだと・・?
『その飛行機を、敵もろとも爆破します。危険なので離れてください。』
「ちょ、ちょっと待て!・・・オイ!!」
ブヅッと言う通信の切れた音を最後に、雷斬の通信用スピーカーからは小さい砂嵐の音しか聞こえてこなくなった。・・・つまり、俺もテロリストもまんまと嵌められたと言う訳か。
なるほど、と納得するのと同時に、機体を目一杯飛行機から離す。こんなダミーの巻き添えは御免だ。
数秒後、そこら中のモニターを焼いてしまうのではないかと思うほどの光が、そこから放たれた。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬:34000C
機体修理:−2090C
計 :31910C
所持金額:100792C
部屋に戻り、ベッドに腰掛ける。正直、こちらも騙すつもりで依頼を頼んだムラクモのやり方には腹が立ったが、どうしてやろうと言う気も起きない。レイヴンとレイヴンズ・ネスト同様、依頼主とレイヴンの間であっても、ただ一つの事を除いたルールなどありはしないのだから。レイヴンは報酬を貰い、依頼主に依頼された事をやるだけだ。
ベッドに勢い良く体を預けて、小さく溜息を吐く。
最後に写った飛行機の爆発の光が、まだ脳裏から消え去ってくれなかった。
現在のランク 5
第二十三ミッション
クローム。アイザック・シティに本拠を置く複合企業体。
現在のこの地下都市計画に最も貢献し、その恩恵を最も受けている企業。
自社による都市の独占管理体制を強化すると公言しているものの、その影響力の巨大さから表立って異を唱え、刃向かう者はいない。
薬学の研究開分野で一流の「ケミカルダイン」とは提携関係にある・・・か。
ざっと調べたクロームの総評はこんな所か。恐らく、この世界を復興するに当たって実力、実歴が伴った企業家や、行き場をなくした大手企業等がひとまず手を結び、自分達に都合のいい都市計画を作り上げているといった所だろう。もしかしたら本当に世界を復興させるだけが目的なのかもしれないが、今のクロームの組織体制と管理、運営のやり方を見ればそうではない事がわかる。
結局、世界の混乱をいち早く鎮めた集団が、そのまま新世界のトップに君臨していると言うのが現状だ。
しかし、その傲慢な姿勢が敵を作る事になる。これまでその雑多に集まった企業のまとまりの無さが、かえってあらゆる分野で伸びて来るという結果になったのだろう。クロームに対抗出来る、企業を始めとする組織は存在しなかった。
それを成しえたのが、この世界で現在最も需要を求められているアーマード・コア関連の分野を一点特化させたムラクモ・ミレニアム社だ。それまであったどんな分野でも遅れを取ることがなかったクロームも、この地下都市が建造され始めてから出来た物であれば他と代わりは無い。・・・実際はそれに費やす費用にクロームと他の企業では雲泥の差があるから、実力差ははっきりと出てしまうのだが、ただそれだけに技術を集中させ、それが今や世界の中心となろうとしている物を造りあげた企業としては、ムラクモはクロームに対抗出来る唯一の企業だ。
そして、その二代企業の一つであるムラクモは、クロームの独占支配思想を認めていない。
つまりこの二つの企業が人知れず、そしていずれは正面からぶつかり合うと言う事を、この世界に住む誰もが知っている。
恐らく、このどちらかが失脚、或いは崩壊すればこの地下世界もまた現状維持が出来なくなるだろう。そうすれば、動くのは残りのたった一つしかない。
この世界を支配し、統治し、作り上げてきたもう一つの組織。
・・・レイヴンズ・ネストが動く。
新型機能力テスト
依頼主 :クローム
前払報酬: 0C
成功報酬:AC用パーツ
以前実行した新型兵器のテストを、市街地を想定したクローム第6試験場で再び行うのが任務だ。
クロームの新型無人兵器「CHAOS」は、前回収集したデータを基に改良を加えた新型だ。
「しかしまあ、この程度の機体にやられるようでは、レイヴンを名乗る資格はないだろうがな。」
と挑発的な文章がクロームらしい。
今回は、市場に出回っていないクロームの新型AC用特殊パーツが報酬だ。
真剣に戦って貰うために報酬は買った場合のみらしい。
無人兵器開発がどれほど進んだのかはわからないが、こんな事をしてクロームがどうするつもりなのか等は考えるまでもない。
とりあえず機体から肩のミサイルポッドと、ロックオン時間短縮用のオプションパーツを外す。
どうせ敵一匹と戦うだけなのだから、無駄な重量とエネルギー消費を抑える必要がある。後は機体構成はほぼ完璧な為、オプションパーツを一つ購入した。ロックオン解除パルスを一定感覚で発進する装置で、長時間ロックオンが必要なミサイル等は無効化出来るだろう。ないよりはマシな、保険程度の物だが。
依頼承諾、発進準備の登録を済ませ、狭い鉄筋の廊下を歩く。
部屋の中は何かと快適に出来ているが、一歩外へ出るとただの鉄筋の化け物の胃の中にいるようだ。
廊下の手すりも低く細く、軽くバランスでも崩せばどこへ落ちるとも判らないほどの高さから真っ逆さまだ。
軽い注意を払いながらもエレベーターの前に向かう。ボタンで呼び出して、シュっと小さい音を立ててて外界と世界と共有した小さな箱に入った。
『テストを開始します。全力で戦ってください。』
本当に市街地のようにビルやマンションが立ち並ぶクロームの実験場で、アナウンスが流れる。機内通信ではなくフロア全体に響き渡る声だ。あちらこちらで反響して揺れる声が不気味だ。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
開始と同時にビルの陰に入る目標を、機体を前のめりにダッシュさせて追いかける。
正面から見えたCHAOSは、以前よりも頭部周辺のセンサーや肩口から覗くアンテナ等、外的オプションが多数追加されていたが、全体のフォルムはどこか機械的で、性能のみを追求したようなシャープな印象を受けた。中に人が乗っていないのなら遠慮する事はない。
ビルの合間を縫うようにして、見えた瞬間にレーザーライフルを打ち付ける。何度かそんな事を繰り返すと、炎を上げて四散した。
「あっけないもんだ・・・。」
目標が消滅した空間をぼんやり見ていると、また室内放送が流れる。
『さすがですね。続けてで悪いのですが、もう1体テストをしてください。では、始めます。』
「ん?聞いてないぞ。」
言う間にも、レーダーが敵の反応をキャッチする。
「・・・そうこなくっちゃな。」
機体を大きくジャンプさせて、目標を上から補足する。
ノコノコと出てきた二体目にも、ほぼ真上からエネルギーの続く限り対空してレーザーライフルを撃ち続ける。
何度かミサイルが飛んでくるものの、決定的な反撃は受けない。
エネルギーの残量を見て着地する頃には、もう一体も既に炎上を始めていた。
『さすがはレイヴンですね。まだ改良の余地はあるようです。ご苦労様でした。テストを終了します。』
今度はもう何もないか。あの口ぶりからすると、恐らくクローム側にとっては依頼文とは裏腹に相当自信があったのだろう。だが、相手が悪かったな。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬: 0C
機体修理: −962C
計 : −962C
所持金額: 73830C
最近依頼主に蔑ろにされるような依頼が多いような気がするが、どうでもいい事だ。
クロームの新型パーツとはどんな物か・・と雷斬をしまった後に覗いてみる。オプションパーツらしいが、フォルムだけでは判らないので、諦めて自室で端末を通して確認する事にした。
データによると、キャノン発射時の反動を軽減するパーツのようだ。二脚型などのヒューマノイドタイプのACはキャノンタイプのバックウェポンを使用する際に反動が大きいため、これで機体の制御を安定させるのだろう。だが、今の俺には全く意味がないものだ。
期待なんかするものじゃないな、と思い、端末の電源を切る。
黒くなったディスプレイに写った自分の顔は、少しだけやつれて見えた。
現在のランク 5
第二十四ミッション
深夜に目が覚めた。
闇に包まれたこの地下世界にも昼と夜などと言った概念が生きており、人々はその時間軸に沿って生きていく。
当然寝る時間も起きる時間も、多少の前誤差を含めればほとんどの人間が同じ時間に寝て起きている事だろう。
冴えてしまった目を擦りながらポットに湯を入れ、テレビモニタを付ける。
生きるために最低限の私物しか置いていないこの部屋の中で、数少ない娯楽のための行為と言えた。
テレビでは過去の地上を空想したコンピュータグラフィックスが延々と流れている。
深夜ではニュースもやっていない為、こう言った趣旨のよくわからない映像が流れている事が多いのだ。
ふと、遥か頭上にかつてあったであろう地上に想像を馳せてみる。
地上。
そこは昔、すべての生物にとって楽園だった。
今じゃ、こんな所で忙しなく動き回るのがやっとの人間もだ。
ポットがカチリと鳴った。
余分な砂糖やミルクを入れず、少し多めに入れたコーヒー粉末だけを湯と混ぜ合わせていく。
安物のコーヒーの香りが部屋に充満した。
人はこうして生きている。
いつ死ぬか判らない、取り分け企業と企業が公然と戦争をするような世界で
それでも人は、こうして生きているではないか。
そんな馬鹿げた思想を、口の中に入ってくる苦味と熱が掻き消していった。
これでいい。
人は還らなければならないはずだ。
その為に出来る事を今はするしかない。
俺にしか出来ない事を。
コンピュータ破壊
依頼主:クローム
前払報酬:13000C
成功報酬:25000C
アイザックシティ南西にある旧軍事施設について依頼したい。
現在ここは、地球環境再生委員会という団体によって占拠されている。
地上環境の調査を目的とした団体だそうだが、どうにもうさん臭い。
この施設に立ち入った理由も、残存する軍事設備の平和的解体と説明しているが、それにしては時間がかかりすぎている。
我々も背後関係を調査中だが、取り急ぎここの連中を何とかせねばならん。
調査によると、この施設は大破壊以前は軍のデータバンクとして機能しており、メインコンピュータにはその当時からの記憶が残っている可能性がある。
奴らの真の狙いが、もしそのデータだとしたらただごとではない。
万一という自体もある。施設に侵入し、メインコンピュータを破壊してくれ。
・・・なるほどな。俺が以前の依頼で侵入可能にした軍事施設を、クロームが嗅ぎつけたと言う訳か。
この依頼主の文章から見て、地球環境再生委員会の目的とその中身がなんであるのか
ある程度の見当は着いていると見える。
万一の自体。そう、旧時代の軍事兵器を奴らが手に入れ、武装蜂起を起こすような事になれば、企業同士の争いに新たな勢力が加わることを意味する。
恐らくそれは、そう空想的な見解ではないだろう。
統合と支配を目指す企業にとって、これほど目障りな組織もないはずだ。
そして勿論、俺の計画にもこう言った奴らの存在は無い方が好ましい。
シナリオはシンプルでなくてはならないからだ。
『メインシステム、戦闘モードを起動します。』
施設は以前の依頼で投下された縦穴から侵入する。
割合にあっさりと入り込めたのは、地球環境再生委員会の連中があくまでも表面的には平和的利用の為にこの施設に居着いている為だろう。
だが、その内部にあっては当然奴らが『占拠』している現状は一目瞭然だ。
何しろACが地面に接地した瞬間に護衛MTからロケット弾が飛んでくるような場所である。
「やはりと言いたいが、ここまで露骨に占拠しているとはな。」
メインコンピュータは施設の最深部だ。
かつては旧時代のセキュリティメカが彷徨いていたフロアには、護衛MTがこちらに照準を当てて待機している。
通路からフロアへ、一瞬で敵の視界から死角へ移動しながらブレードで切り払う。
「そこまで本気の防衛と言うわけでもない・・・なんだ?」
MTを2機撃破して進んだ先の少し広いフロアに、通路からでも確認出来る光の炸裂があった。
罠か?
慎重に雷斬を進ませ、壁から半身を見せる。
光の正体を捉えると同時に、続けざまに数発、光が目を覆った。
「ACだと!?」
まさかこんな所でACを見ることになるとは思わなかったが・・・。
だが敵の武装は大したことはない。
軽量級の機体構成に、目くらましと衝撃重視のハンドガンを持っているだけの機体だ。
「接近戦がお望みか!」
フロア中央で暴れる敵ACに向かって間を詰める。
慌てていると主張するかのように連射してくるハンドガンの弾を受けながら、レーザーブレードの間合いに切り込んでいく。
「相手が悪かったな。」
ヴン、と鈍い音が数度響いた後は、あっけない爆発音がなるだけだった。
やけにぬるい護衛かと思えばACか。
前回、この軍事施設のセキュリティを完全に停止させてから今回の依頼までのタイミングを考えると、あまり状況が良いとは言いにくいようだ。
奥へ進むと、またしても先ほどと同じMTが数匹固まっていた。
進行方向上の最低限のMTだけを破壊し、奥へ進む。
少し長い下り坂を降りると、大きな扉が待ち構えている。
「これは・・・」
この施設へ最初に来た時はここが最終地点だった。
次にここへ来た時はスタート地点だった。
扉のロックが破壊されている。かつてここへきた俺の手によって。
ここからが正念場か。
雷斬を扉の前まで移動させ、扉を開く。
続く長い下り坂を降り、ゲートをもう一つ開く。
先には、またしてもMTが待機していた。
あちらのロケットとこちらのレーザーライフルの弾丸が交差する。
なん度となく同じ事を繰り返し進むと分かれ道になっており、片方は前回入ったセキュリティ装置のフロアへは進行できなくするように、通行防止のシールドによってゲートが閉ざされていた。
ここを破壊して進むほうが最深部に近いのかも知れないが、先にもう一つの通路を確認しておいたほうがいいだろう。
ゲートを開く、と同時にロケットの弾。全くワンパターンだ。
と同時に、こちらが正解だと言う確信も得た。
一本道の先に待機するMTをレーザーライフルで焼く。
進んでいくと、レーダーに三機の機影が映った。
まとまった防衛エリアはなかった為、恐らく最深部に近いのだろう。
機体を通路の影から飛び出させると同時にレーザーライフルを撃つ。
今度は、ロケットの弾ではなくハンドガンの光が交差した。
「なに、まさか」
言っている間にも雷斬をまた通路の影に隠す。敵のACから放たれた光が、通路の先に焦げ跡を残していく。
「AC三機とは恐れ入った。」
パッと見た所、最初に見たACと同じタイプのACのようだった。
レイヴンではなく、雇われた組織か、地球環境再生委員会の人間達なのだろうか?
だが、そこまで堅牢にここだけ護衛を配置するというのは、かなりそれらしい場所であるという事だ。
「引くわけにはいかない。」
手前にいる一機から、順にレーザーライフルを打ち付ける。
一機、二機、三機・・・。
かなり敵の弾も食らったが、なんとかレーザーライフルの弾が切れる前に最後の一機も沈める事が出来た。
三機目のACが残骸と化したその向こうにゲートが見える。
機体のカメラ・アイに組み込まれた依頼用のデータから、扉のむこうに『TARGET』と文字が浮かび上がっている。
さて、この先にあるのがメインコンピュータとやらだろう。一体どれほどの科学力の結晶か、非常に興味深い所ではある。
が、ゲートを開いた時に待ち構えていたのは、想像とは多少異なった光景だった。
少し狭い通路に、先ほど破壊した物と同じタイプのACがいた。
即座に通信が入る。
「き、君はレイヴンだな!?私は何も知らなかったんだ!こ、ここに、あんな物が―――」
通信が乱暴な音と共に切れる。と同時に、目の前のACが爆発した。
「何を聞いた?・・・まあいい。消えろ。」
その奥にもう一機のAC・・・。間違いなくレイヴンだろう。これまでに見た物と違う、破壊するための武装を伴った戦闘用のACだ。
「弾もないってのに・・・!」
間髪いれずにマシンガンを発砲してくる。雷斬を左右に振りながら奥のフロアへと進む。まずは広い場所に出ないと、こちらが余りに不利だ。
「これがメインコンピュータか!」
でかい。とてつもなく巨大な制御装置に、光の筋がいくつも通っている。
フロアそのものを包み込む配線と、天井から床下まで貫くボディからは、その全長はとても計り知れない。
と、見とれている場合ではない。マシンガンからミサイルに武装を切り替え、敵はこちらを狙っている。
戦い慣れている。だが。
「やはり、相手が悪い。」
メインコンピュータを盾にして敵の攻撃の波を回避し、飛び出しざまにレーザーライフルを撃つ。
残弾数表示が0になるのと同時に、ACは炎上し、爆発した。
・・・こいつは一体どこの勢力なのか・・・?
恐らく、俺と同じように誰かに雇われたレイヴンなのだろうが、俺とは明らかに事情が違うようだ。
防衛MTやACがいる更にその奥で、奴は何をしようとしていたのか?
奴の意味深な言葉を振り切るように、何も言わないコンピュータをブレードで破壊した。
『作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します。』
成功報酬: 25000C
機体修理: −3360C
計 : 19440C
所持金額: 106270C
部屋では、一口だけ飲んで放置したままの、冷め切ったコーヒーが俺の帰りも待っているだけだった。
最早苦味しか残っていないコーヒーを一気に飲み干すと、不思議と頭の中がすっきりしたようだった。
現在のランク 4
予想よりも早くランク上位に名を連ねた有望株。
トップ3とのランク争いが注目される。
第二十五ミッション
依頼を終えた後は、いつもねっとりと絡みつく粘土のような気怠さが体の周りに纏わりついている。
行き交う弾丸やレーザーの音、悲鳴に戸惑い、そして爆散するアーマード・コア。
たかが数分のうちに目に入る情報はどれも絶望に溢れていて、その地獄から唯一生き延びた安堵感と罪悪感に支配される。
見慣れデッキに足を降ろし、電気と油と鉄の塊になってしまった雷斬を見上げる。
いつまで続くだろうか?もしかしたらこんな事を繰り返す意味はないのかもしれない。
いや、事実繰り返しているのだろうか。
悲しみの連鎖を断ち切ろうとするたった一人の戦争でさえ、もしかしたら仕組まれた繰り返しの一部だとしたら・・・。
俺はまだ熱を放っている機体に背を向け、いつものように部屋へ続く道順を行く。
鉄で出来た牢獄を思わせるエレベーターと通路を抜け、扉を開ける。
今日もここに帰ってこれた。帰ってきてしまった。帰ってこないわけには行かないのだ。
酷く疲れている。
ベッドに倒れこみ目を閉じると、爆発の光が目を焼いたのか、閉じた瞼の裏にはまだ赤く光る刺激が見える。
いつ俺がああなってしまうか判らない。が、それはそれでいいと思う。
やれるのならばやり遂げる。出来なければそれまで。
使命を負っているのではない。果たさなければならない復讐劇ではないからだ。
ただ生きる意味が欲しかった。憎しみを糧にしなければどうにも出来なかったし、俺にはそれが出来てしまった。
しかし、この復讐劇に付き合って命を落とした数えきれない魂がそんな俺を許してくれるだろうか?
・・・きっと許してくれる。彼らもまた解放を望んでいる。この鬱屈した世界を誰かがこじ開けなければならないから。
・・・目が覚める。
幾分かクリアになった思考で現状を把握する。
前回の依頼で破壊したコンピュータは、恐らく大破壊以前の記録とテクノロジーを持っていたのだろう。
それを調査し、我が物としようとしている連中がいた。いや、まだ本体を叩いた訳ではない。まだどこかにいるはずだ。
これはこの地下世界で、まだこの大きな力の渦に巻き込まれまいとする勢力がいるという事だ。
そして、それらが他勢力にその存在を感知されてでも、武力を行使してそれを実行に移そうとしている。
何か大きな動きがあると見える。
間に合った。
その一言に尽きる。一波乱起きる瞬間に、俺は俺の復讐を果たす事が出来るかも知れない。
簡単な身支度を済ませながら、しかし、と考える。
何はともあれやることは決まっているのだ。今の俺は、ただのレイヴンなのだから。
端末には二つの依頼が配信されていた。
ACバトル 42000C
生物兵器解放 32000C
一方はレイヴンズ・ネストからの依頼。レイヴンズ・ネストで行われる見世物のACバトルだ。
もう一方はムラクモ社からの依頼。ケミカルダイン社が内部で開発中の生物兵器を解放し、社内で暴走させて滅茶苦茶にしてしまえと言う依頼だ。
・・・クロームの提携組織として報復の対象になったという訳か。
ムラクモとクロームの抗争を加速させる意味合いではこちらの依頼を優先したいところだが、最早それに意味はないだろう。
緩やかにだが確実に、ムラクモの思惑通りに世界は動いている。
ケミカルダインの生物兵器開発が明るみになった以上、俺が手を下す間もなく、この企業は終わりだ。
そして、それは少なからぬダメージとしてクロームへの打撃となるだろう。
俺はもう一つの依頼をクリックした。
相手が誰かは分からない。が、ここでの評価を上げる事でランキングの向上に繋がることは間違いないはずだ。
ACバトル
依頼主:レイヴンズ・ネスト
前払報酬: 0C
成功報酬:42000C
『近日中に、我々ネスト主催で開催されるACバトルへの参加者を募集する。
このバトルは、各界の著名人を招待し、AC同士の格闘でギャンブルを楽しんでもらう、一つのイベントだ。
もちろん、君たちにもメリットがある。戦闘の勝者には、通常の依頼に相当する金額の報奨金を進呈しよう。
対戦相手はこちらで決定させてもらう。
使用する武器、装備等は一切自由だ。諸君の積極的な参加を希望する』
白兵戦だけだと判っているならば今の装備で問題ないだろう。
俺は依頼を受諾し、ACデッキへと急いだ。
ACと共にレイヴンズ・ネストのどこかへ運ばれる。
その間、スピーカーからは対戦における諸注意の説明やら何やらが垂れ流しになっていた。
こちらが聞いているかどうかなど端から気にしていないのだろう。ただマニュアルにそう書いてあるから喋っているだけだ。
やることは単純。勝てばいい。
説明のアナウンスがプツ、と切れたと思った瞬間、例によって明るいフロアへ落とされる。
目の前にいるのは・・・二対のAC?
フロアに響く声で主催が言い放つ。
『君ほどの腕だ。一対一では賭けにならない。そこで少々のハンデを付けさせてもらった。それでは始めててもらおう』
それが戦闘開始の合図のようだった。
『システム 戦闘モードを起動します』
二対のACから交差するように放たれる銃弾を大きく避ける。
『敵ランカーACを確認しました。ファフニールです』
ランカーAC・・・ファフニールと言うと、ランク2位のエースのはずだ。なるほど、よほど腕に覚えのあるレイヴンでないと参加しない依頼なのだろう。
しかしランク下位のレイヴンに対してハンデ付きとはな。ランキングが必ずしも強さの絶対的指数ではないにしろ、プライドと言う物が存在しないのか?
一昔前では考えられないな。
思った通り、二体のACは連携が取れておらず、雷斬と敵二体が一直線上に相対するように動けば二対一のアドバンテージは失われたも同然だった。
どちらともなくレーザーライフルの斉射を浴びせると、手前にいた四脚ACが火柱を上げる。
少なからず後方からの弾丸も受けていたのだろう。これでハンデは無くなった。
爆発炎上する機体の横を抜け、ファフニールへ突進する。
狂ったように連射するマシンガンの嵐の中を突っ切り、レーザーライフルを至近距離で連射した。
次第に動きが鈍り、何をするでもなくファフニールが炎を上げる。
ランカーACと言えどこの程度だ。任務達成率や機体構成が少しばかり上手かろうと、一世代前のAC乗りとは白兵戦のキャリアが違いすぎるのだ。
とは言え、これだけ多くのギャラリーの中で、しかも二対一で無様にやられては奴も立つ瀬がないだろう。
力のない者にここに立つ資格はない。
『作戦目標クリア システム 通常モードに移行します』
成功報酬: 42000C
機体修理: -222C
計 : 41778C
所持金額 148048C
現在のランク:2
最短で上位に進出してきたレイヴン。任務の達成率と撃破数の両面で「エース」と呼ばれるにふさわしい。