中学生の頃、転校したばかりでやる事がなかった僕は、ずっと一枚のアルバムを聞いていた。

いつまで聞いていたのかは解らないけど、いつの間にか全く聞くことのなくなったアルバムだ。

寝付けないので、CDが山積みになっているケースの中を覗くと、久しぶりにそのアルバムを見つけて

懐かしくなったので歌詞カードを見ながら、聞いてみた。

歌声やバックのミュージックが、当時の僕を思い起こさせる。

「ああ」って。

昔の僕はこんなところにもいたんだなって思った。

そして、自分がずっと自分なんではないって思った。

過去の僕は過去の僕だし、今の僕は今の僕だった。

一緒に遊ぶような友達もいなくて、趣味も無くて、暇を潰す為に聞いていたアルバムに

古臭いのに緊張する校舎の雰囲気とか、登校する時の面倒な気持ちとかが、全部あった。

そして、後ろを振り向いてみると昔の僕もこっちを見つめていて、目が合ったんだ。

真っ直ぐな目を見て、僕は目を逸らした。

「ごめんね」って言わなきゃいけない気がして、口に出してみた。

本当はこんなはずじゃなかったのに。昔の僕が期待してた自分に、僕はなりきれていない。

沢山夢や希望を持って期待していたはずの未来が、こんな自分だって言う。

これじゃあ、報われない。昔の僕に対して。

じゃあやっぱりやらなきゃならない。

ずっと、もうずっと長い間心の中に立ち込めていた霧が晴れたようだった。

何年もの間、僕は自失していたんだろう。

自分を諦めて、夢を諦めて、世間はこんなもんだって何もかもに諦めていた。

そんなもんだって自分はわかってるふりしながら、泣いてる心を無視してたんだ。

だからもう後ろは向かなくてもいい。

本当に正直になるだけでいいやって思えた。

僕が探してた物は、あの頃の僕だったんだ。

もう振り向かないでも、笑ってみてくれるだろうって解った。

「ありがとう」って口に出してみると、今まで見えてた昔の自分はどこかへ行ってしまった。

やっと、戻ってきた。

そんな気がした。